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「荷主」からドライバー引き抜き(2023/05/14)


有効求人倍率 高くなる中


 厚生労働省職業安定局によると、「貨物自動車運転者(トラックドライバー)の有効求人倍率は、2019年12月の3・04倍をピークに減少に転じていたが、今年2月時点で2・26倍と高くなっており、全職業の平均よりも2倍以上高い数値になっている。こうした状況下、得意先からドライバーの引き抜きの働きかけがあったところが出てきている。

 関西の運送会社A社は、「最近、得意先の白ナンバー(自家用トラック)の運転手としてスカウトされるケースがある。先日、うちの運転手が、ある下ろし先で『うちの配送運転手になってくれないか』と声をかけられた。声をかけてきたのは製品の加工・卸業者だが、加工した製品は自社トラックで配送している。また、『フォークリフトの運転手になってくれないか』と声をかけられた運転手もいる。どの業界も人手不足は深刻だ」と話す。
 埼玉の運送会社B社では、「知り合いの軽貨物運送会社は、取引していた荷主からドライバーを引き抜かれた。その荷主には、月極契約でトラックとドライバーを派遣し、商品の配送業務を行っていた。ある日、ベテランドライバーから退社の申し出があり、ドライバーの変更を荷主に伝えたところ、荷主から『そのドライバーはうちで社員として採用する』と言われたという。
 
 もちろん、同業者間でも引き抜きはある。
岐阜県の運送会社C社は、「大手・中小問わず、平ボディのドライバーは取り合いになっている。雨の日に荷台に上がって重たいシートを着脱しなければならず、バンやウィングに比べ、重労働になりがち。『知り合いのドライバーを引き抜いたら20万円の報奨金を出す。紹介で新しく入って来たドライバーにも入社祝いとして5万円支給する』といったうたい文句でドライバーを集めている会社もある」と話す。

 他社のドライバーに声をかけ「引き抜き」を行うことは、法的に問題はないのか。
永代共同法律事務所(東京都)の小野直樹代表は、「現状、ドライバーの引き抜きを直接規制する法律はなく、罰則もない。『職業選択の自由』『会社としての営業の自由・採用活動の自由』といった観点から、法律による規制はなじまないからだ。ごく例外的に、『単なる転職の勧誘を越えた社会的相当性を逸脱した方法』で引き抜きが行われた場合、損害賠償請求が行われたケースはあるが、現実には、数名レベルの引き抜きでは違法とみなされる可能性はほとんどないと考えた方が良い。
 現実的な対処法としては、『契約上の義務』を盾に防御することが有効と考えられる。
具体的には、『①荷主側との契約で、引き抜き・声掛けを禁止する』『②ドライバーとの就業規則や誓約書に、取引先への転籍を(一定期間)禁止する項目を設ける』等がある。
ただし、②については『職業選択の自由』との兼ね合いがあり、競業他社(運送会社)だけなく取引先への転職も制限する就業規則は、単なる転職制限(囲い込み)とみなされる恐れもあり、注意が必要」との見解を示す。

 大阪の運送会社G社の社長は、「優秀な人材が引き抜かれるのは、どこでもよくあること。経営者や管理者は、従業員が引き抜かれないように日々職場の環境を整え、コミュニケーションを図っている。そうしたことは手間も時間もかかり、決して楽なことではないが、手を抜けば引き抜きをする会社に負けてしまう」と話していた。(5月15日号)