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トラックと乗用車で罰則に差? トレーラー運転手「危険運転」で送検(2023/10/15)
今年5月の事故
5月19日夕方、茨城県の国道で大型トレーラーが車2台に衝突し、2人が死傷した。トレーラーは法定速度(時速60㎞)を超えるスピードを出してスリップし、対向車線にはみ出して乗用車に衝突。さらに、はずみで横転し、後続の軽乗用車を押しつぶした。事故当時、雨で路面は濡れていたが、警察は、摩耗したタイヤで走ったことが事故の原因であるとして、トレーラーの運転手を「危険運転致死傷」の容疑で書類送検した。
当初、警察は運転手の男を過失運転致傷の疑いで現行犯逮捕(その後、容疑を過失運転致死傷に切り替え)していた。しかし、その後の捜査でタイヤのすり減りや濡れた路面の状況などが判明。そのような状況にも関わらず、トレーラーは制御困難なスピードで走っていたとして、過失運転致死傷よりも罪が重い「危険運転致死傷」を適用した。
「過失運転致死傷罪」は、自動車運転中の過失によって、人をケガをさせる犯罪で、刑罰は7年以下の懲役もしくは禁錮又は100万円以下の罰金。
「危険運転致死傷罪」は、危険な自動車の運転によって、人を死亡または負傷させた場合に成立する犯罪。 死亡させたときは1年以上20年以下の懲役、負傷させたときは15年以下の懲役となる。
従来は、運転中に人を死傷させた場合、業務上過失致死傷罪が適用されていたが、飲酒運転による悲惨な事故の被害者遺族を中心に「罰則が軽すぎるのではないか」という声が上がり、こうした動きを受け、2001年に「危険運転致死傷罪」が新設された。
また、過失による死傷事故の場合でも、実態に合わせた刑罰を科すため、2007年に「自動車運転過失致死傷罪」が追加された。
このように「危険運転」が厳罰化された一方で、一般の乗用車による事故では「危険運転致死傷」の適用を見送るケースも出ている。
2018年12月、三重県の国道で、乗用車が時速146㎞の猛スピードで交差点を直進し、タクシーの右側面に激突。タクシーの乗客と運転手計4人が死亡し、1人が重傷を負った。
乗用車を運転していた男は逮捕後、津地検から危険運転致死傷罪と過失運転致死傷罪の両方で起訴されたが、裁判では過失運転致死傷と判断され、危険運転致死傷の適用は見送られた。
また、今年2月、栃木県の国道で、オートバイを運転中の男性が、後ろから時速160㎞を超えるスピードで走ってきた乗用車にはねられて亡くなった。この裁判でも、乗用車の運転手は過失運転致死と判断され、危険運転致死の適用は見送られている。
冒頭の事故のように、トラックやバスがスピード超過や信号無視、あるいは飲酒運転やあおり運転で逮捕された場合、多くは「危険運転致死傷罪」として罰せられるが、一般の車は猛スピードで事故を起こしても「危険運転」の罪に問われないケースがある。
東京のある弁護士は私見であると前置きしながら、「危険運転」の適用について次のように話す。
「バスやトラックの運転手は、道交法や運送車両法以外にも、貨物運送事業法や労働安全衛生法など、様々な法律に従いながら、プロとして安全に運転することを求められる。したがって同じ運転ミスでも、プロは素人より厳しくとがめられる。
また、遺族や世間の感情も、加害者がプロの場合と素人の場合とでは、かなり違うものになる。そのため裁判の判決も、プロの運転手には厳しいものが出される。
ましてやプロが制御できないほどのスピードで運転する、悪質な割り込みや幅寄せを行うなどはもってのほかで、『それが危険な運転だとは思わなかった』という言い訳も、プロの場合は当然通用しない」(10月16日号)